JASVブログ第235回

みなさんこんばんは。㈱豊浦獣医科クリニックの古川誠です。11月に入っても日中はまだ汗ばむような陽気が続いていましたが中旬に差し掛かるころになってようやく気温も下がり始め、秋が終わりに冬の入口に一歩また一歩と近づいているなと感じる毎日です。

 

さて、先月末の話になりますが、フィリピン・マニラで行われたアジア養豚獣医学会(APVS)に参加する機会がありましたのでそのことについて書かせていただこうと思います。

 

農場視察や研修などで海外に行く機会はこれまで何度かあったのですが、学会参加のために海外に出るのは初めてだったので出発前からとても楽しみにしていました。

APVS自体に関しては、欧米諸国の養豚先進国と比較するとアジア全体の養豚産業はまだまだ黎明期という感じで目新しい知見などはそれほど多くなかったように思いますが、各国の養豚事情や概況をまとめて知ることができ、またアジアにおける日本の立ち位置もずいぶん見通しが良くなったような気がしました。

パーティや講演予定の時間が毎回遅れるなどアジア的なというか、良く云えばのんびりした、悪く云えば適当なところも多々ありましたが、イメージしていた海外の学会の華やかな雰囲気は存分に味わうことができて個人的にはとてもいい学会だったように思います。今回は日本人の発表も多く存在感を示していて、いつか自分も発表しなくてはならないなと来たるべき機会に向けて思いを新たにしました。

 

今回のAPVSはフィリピン・マニアで行われるということで、フィリピンの養豚のある点に関して着目をしていました。

それはアニマルウェルフェアに関してです。

フィリピンに関する情報を仕入れておこうと、出発前と飛行機の中で水谷竹秀著「日本を捨てた男たち フィリピンに生きる『困窮邦人』」と同じ著者の「脱出老人 フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち」の2冊に目を通していきました。

後者は仕事をリタイアし余生をフィリピンで過ごしている人にフォーカスを当てています。作者の水谷竹秀は、いろいろな事例を挙げながらフィリピンでの老後生活は日本人が思い描いているほど甘くはないよと釘を刺す一方で、現地に順応し悠々自適にそして幸せに暮らしている人々も紹介していて読後感は悪くなく、こういう余生の過ごし方もあるのだなと考えさせられます。しかし、前者はタイトルが直截に示す通り、現地で強盗にあった、仕事で騙された、日本で罪を犯し逃亡してきた、日本のフィリピンパブで知り合った女性を追いかけてきた、などさまざまな理由でフィリピンにやってきたものの、やがて所持金も果て帰国することも不可能なほど困窮状態に陥った日本人を徹底取材した迫真のノンフィクションで、読後ズシリと心に重さを残す内容でした(作中示されたデータによると、2010年度に在外公館に駆け込んできた困窮邦人の数は768人で、そのうちフィリピンは332人と最も多い割合を占める)。

困窮邦人がフィリピンでどのような生活をしているのか、そしていかにして困窮邦人となったのか…作者は日本とフィリピンを何度も行き来しながら丹念に困窮邦人の半生追いかけていますが、私はこの本を読んで困窮邦人の数奇で悲劇的な運命に驚かされたのはもちろんですが、それ以上に驚いたのは困窮邦人に救いの手を差し伸べるフィリピンのスラム街で暮らす人々の姿でした。

決して裕福な国とはいえないフィリピンの中でも最下層の暮らしをしているスラム街の人々が、裕福な日本からやって来てフィリピンでホームレスと化した日本人を家に招きテーブルを共にしながら食事を与え、時にはシャワーを浴びさせ洗濯もしてあげる…この本の中ではそのような奇妙でいびつな構図が幾度となく描かれています。

彼らは自分の日々の暮らしだけでも大変なのになぜ日本人ホームレスを助けてあげるのか、読んでいて私にはこの部分だけはどうしても理解することができませんでした。この点に関しては著者も同じ感想をもったらしく何度も現地の人々に理由を尋ねるのですが、返ってくるのは「困っている人がいれば助けてあげるのが当たり前」の一点張り。

フィリピンはキリスト教国(ASEANで唯一)であることが大きく影響しているのは間違いありませんが、それにしてもここまでの博愛精神は特定の宗教を持たない私にとって理解を遥かに超えたものでした。

そして次に頭に浮かんだのが、このキリスト教に基づく博愛精神が養豚産業におけるアニマルウェルフェアという概念をどう捉えているのかという疑問でした。

 

フィリピンの養豚産業を紹介する講演の中で、アニマルウェルフェアに触れた箇所はなかったので、まだまだそのようなことを話題にするレベルや段階ではないのかもしれません。

しかし世界の兆候として、アニマルウェルフェアに関する考え方は着実に浸透していっています。

もしアニマルウェルフェアが十分に守られた環境で育てられた豚がある種のブランドになって輸出の際の武器になると彼らが判断し、アニマルウェルフェアに本腰を入れようと仮定したらどうなるでしょうか。キリスト教の精神は“汝の隣人を愛しなさい”と説いていますが、人間以外の動物を愛しなさいとは規定していません。

フィリピン人は家畜に対してどのような考え方を持っているのか、そしてアニマルウェルフェアという概念をどのように捉えているのでしょうか。

宗教とアニマルウェルフェアの関連性を論じた意見は寡聞にして聞いたことはありませんが、キリスト教という素地を持つフィリピン人ならば、日本人とは異なる思考回路、いや感覚でアニマルウェルフェアの精神を受け入れそれを遵守できるのかもしれないな、とそんなことをつらつらと考えながら過ごしたフィリピンでの4日間でした。

 

 

 最終日に行った教会。本当は「困窮邦人」に出てくるバクララン教会に行きたかったのですが、ここも荘厳な雰囲気の素晴らしい教会でした。

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